大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第三小法廷 昭和33年(オ)1052号 判決 1959年4月28日

主文

原判決を破棄する。

昭和三一年九月二日施行の名瀬市議会議員選挙の効力に関する訴外恵重二の訴願に対し被上告人が同三二年二月二日附でした右選挙を無効とする旨の訴決を取り消す。

訴訟の総費用は被上告人の負担とする。

理由

上告代理人奥江秀一の上告理由について。

論旨は要するに原判決は公職選挙法施行令三五条一項または同法二〇五条一項の解釈を誤つた違法がある旨を主張し、原判決が本件選挙を無効とすべきものとして被上告人がした訴願裁決を支持したのを非難するに帰する。

原判決が本件選挙を無効とすべきものとしたのは、本件選挙の第一投票所において、名簿対照係の席が投票立会人席から見透すことができず、このような配置をとつた措置は公職選挙法施行令三五条一項に違背し、この違法は同法二〇五条一項にいう選挙の規定違反にあたり、選挙の結果に異動を及ぼす虞があるとしたためであることは、原判文上明らかである。

原判決が認定した右第一投票所の施設が公職選挙法施行令三五条一項の趣旨に反し選挙の規定に反することは原判示のとおりである。しかし、同法二〇五条一項は選挙の規定違反があつた場合に結果に異動を及ぼす虞がある場合に限り選挙を無効とすべきものとしているのであつて、この点について原判決は、このような規定違反は選挙の自由公正に対する一般選挙人の疑惑を避けることができず選挙制度の信用を害することを免れないとし、さらに中島輝光名義の違法投票が行われたのも右規定違反の結果と推認し、そして、本件選挙の最下位当選人と落選人の得票数から右の規定違反は選挙の結果に異動を及ぼす虞があるとしているのである。しかし原判決が、本件訴願裁決理由の当否を判示するに際しては、選挙人確認手続に疎漏があり漫然投票用紙が交付された旨の被上告人の主張事実を認めず、名簿対照係が行つた選挙人確認手続の上には何等違法の点はなかつた旨を認定しているのである。若し投票立会人席から名簿対照係席を見透すことができず、ために確認手続が漫然と行われた違法があれば、選挙人が選挙の公正に疑を抱くのも当然であり、前記施行令三五条一項違反はひいて選挙の結果に異動を及ぼす虞があるということができるけれども、右原判示のように確認手続に違法がないならば、立会人席から対照係席が見えないというだけで選挙人が選挙の自由公正に対し疑を抱くとは直ちに考えられないのみならず、前記中島名義の違法投票のごときは、選挙の規定違反がない場合でも行われることがあるのであつて、原判示のような右違法投票を前記施行令三五条一項違背の結果と推認することはできない。しからば、原判決が右の規定違反が本件選挙の結果に異動を及ぼす虞があるとしたのは、結局公職選挙法二〇五条一項の解釈を誤つた違法があるに帰し、本件上告はこの点において理由があり原判決は破棄を免れない。そして、被上告人のした本件訴願裁決が本件選挙の無効原因とした事実については、原判決は、すべてその存在を肯定できないとして居るのであるから、本件選挙はこれを無効とすべき事由がなく、これを無効とする旨の本件訴願裁決もまた取消を免れない。

以上の理由により、民訴四〇八条一号、九六条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石坂修一 裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 垂水克己)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例